一般財団法人慈山会医学研究所付属坪井病院
理事長 坪井永保
寝ているときに大きないびきをかき、人から「息してなかったよ!」と言われた事はありませんか?このページのテーマは「睡眠時無呼吸症候群」という病気です。
2003年2月26日、山陽新幹線で運転士が居眠り事故を起こし、それがきっかけで睡眠時無呼吸症候群が広く世間に知られるようになりました。
日本には、中高年の男女を中心に200万人が睡眠時無呼吸症候群だといわれています。ところが、治療を受けているのは約3万人にすぎません。
自分だけではなく、周りの人にも深刻な影響があるこの病気について解説します。
このページの内容
睡眠時無呼吸症候群は英語でSleep Apnea Syndrome といい、頭文字をとってSAS(サス)と呼ばれる事が普通です。後に述べる「閉塞型:Obstructive」がほとんどのためOSAS(オーサス)と呼ばれることもあります。
SASは「10秒以上の無呼吸が一晩(7時間以上の睡眠中)に30回以上生じる場合」と定義され(図1)、無呼吸が起きる原因によって次の3つに分類されます。息を吐くときに肥大した舌や軟口蓋が閉塞するために起きる閉塞型、脳の中の呼吸の司令塔(呼吸中枢)に異常が起きるために起きる中枢型、閉塞型と中枢型が混在する混在型があります。このなかで最も多いのが閉塞型のSASです。「カァーッ、カァーッ」という大きないびきをかいているかと思うと突然呼吸が止まり、耐えられなくなって呼吸が再開しまたいびきをかく、これを睡眠中に繰り返します。
図2はSASではない人が仰向けで寝ている時の断面図です。喉の奥の閉塞はなく、空気の流れも順調です。一方、図3のSASの患者さんでは閉塞しており空気が通れません。また、図4はSASの方の喉の奥を見たものです。棒で舌を押し下げても喉の奥を見ることが出来ません。このような方は、仰向けになるとすぐに閉塞してしまいます。
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SASの患者さんが外来を受診するきっかけは様々です。
無呼吸とは「息が止まっていること」をいいます。10秒以上呼吸が止まっていることを無呼吸と呼びます。
いびきや無呼吸は寝ている間の出来事なので自分ではわかりません。家族・友人・会社の同僚など「患者さんの寝ている姿を見る事の出来る第三者」から指摘されます。
笑えないエピソード
いびきが大きいため、家族が一緒に寝ていられない。したがって家庭内別居。しかし、1階と2階に分かれて寝ても、まだうるさい! といった尋常でない大きさのいびきであることが多くあります。
隣で寝ているご主人(奥さん)が息をしていない!! 大変だ!! 慌てて体を揺すって起こす。
友人や会社の同僚などと旅行に行ったとき「朝起きたら自分だけ一人で部屋に寝ていた。」「朝起きたら自分だけ旅館の部屋の押し入れに入れられていた。」「朝起きたら自分だけ、布団ごと旅館の廊下に出されていた。」ホテルではベッドなので無理ですよね。いずれのエピソードも大きないびきのせいです。
会社での出来事。 会議の最中に寝てしまう(つまらない会議では当然?)。SASの場合は会議の議長をしているのに平気で寝てしまうような、強い眠気が襲います。寝てしまう議長が会社のトップだったりしたら...社員は「うちの会社大丈夫?」ってなりますよね。
仕事の能率が上がらない、集中力が続かない。書類などで間違いが多い。このようなことがもしSASが原因だとしたら、とても不幸なことです。なぜならSASな治療によって正常な状態にほぼ戻せるので、気づかずにいると「その人の社会的評価・人格評価」にも影響を与えかねないのです。
交通事故。居眠り運転です。オートマチック車で渋滞にはまったとします。シフトをD(ドライブ)に入れてブレーキを踏みながら、ノロノロ進んでいるとします。強い睡魔が襲い、本人が気づかないうちに、ふと眠ってしまいブレーキペダルを踏んでいる足の力が抜けてしまう。結果、ゆっくりと前進し前の車にゴツン! 追突事故です。 そのほか、居眠り運転のためブロック塀にこすった。側溝にはまった。畑や田んぼに落ちた。など。
診察室で。 私の前に座っていろいろ話をお聞きしている最中、私がカルテを書いている間、会話が途切れている間に、なんといびきが聞こえてくる。目を患者さんに移すと眠っていらっしゃる。私の話題があまりにつまらなかったからか? 長い間お待たせしたため? 残念ながらそうではありません。
「自分は目を閉じれば、いつでも、どこででもすぐに眠れるんです。」と自慢げに話すお方。 SASのために睡眠の質が非常に悪いため、常に眠いのです。
この8つのエピソードはSASの患者さんで実際にあったお話しです。
SASは高血圧、高脂血症、心臓病、脳卒中などいわゆる生活習慣病を合併することが多いため(図6〜図11)、これらの病気で通院中の患者さんで、いびきや無呼吸がある場合、先生からのすすめで紹介されて受診します。
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SASの検査(簡易検査といって自宅でできるスクリーニング)が簡単にできるため、最近は会社での検診として行うようになり、その結果SASの疑いがある方が受診されます。
SASは寝ている間の出来事なので、自分で気がつくことが難しい。とは言っても、「苦しくて、首を絞められたようになって突然飛び起きる。(チョーキングと言います)」「自分のいびきで起きることがある。」「日中眠くて仕方がない。」など自覚症状で自ら受診します。
ここでSASの症状を整理しましょう。
SASの原因は、図3の様に舌の根元、軟口蓋と口蓋垂、上咽頭が睡眠中の筋緊張の低下により一体となり閉塞してしまうことによります。太るとこの部分も狭くなるので、SASが太っている人に多いのも頷けます。しかし日本人は太っていなくてもSASの患者が多いのも事実です。日本人のSAS患者の特徴として、大きなおなか、小さな顎、短い首、が上げられます。なおかつ舌の位置が高く後方にあり、普通に口を開けて自分でのどの奥が見えない(図4)ようであればSASを疑います。
SASの重症度は、10秒以上の無呼吸と低呼吸が1時間に何回起きるかで重症度を測る「無呼吸/低呼吸指数」(AHI:Apnea Hypopnea Index)を用います。AHIが5回未満は正常、5回〜14回が軽症。15〜29回は中等症。30回以上が重症と分類されます。
SASの診断と重症度をみるために、以下の検査を行います。
昼間の眠気の重症度を示すものとして用いられるのが、Epworth sleepiness scale(日中の眠気指数)です。以下のa〜hの8項目の質問に対して各項目0から3の該当点数の合計点で評価します。
点数0:決して眠くならない、1:稀に(時に)眠くなる、2:1と2の中間、3:眠くなることが多い
正常は10点以下で16点以上は重症、11〜12点は軽症、13〜15点は中等症と評価されます。
この日中の眠気指数は睡眠時無呼吸症候群の治療効果の判定にも用いられます。
実は、AHIが20回/時よりも少ない患者さんと20以上の中等症以上の患者さんを比べると、後者は寿命が徐々に短くなることがわかっています(図12)。
自宅に持ち帰って簡単に検査できる小型で軽量の機械(アプノモニター、スリープテスター)があります。
アプノモニターでは、呼吸が何秒止まっているか、一晩に何回無呼吸が起きているか、動脈の酸素値がどのくらい下がっているかなどが分かります(図13、14)。
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詳しく調べるためには、病院で一晩眠ってもらい、睡眠ポリグラフの検査(ポリソムノグラフィー)をします。これは体にいろいろなセンサーを付けて、顎筋電図、眼球運動、脳波や心電図、胸部・腹部の動き、鼻からの空気の流れ、動脈血の酸素量、いびき、などを記録し総合的に解析するものです(図15、16)。これで深い睡眠がとれているか、SASであるかの確定診断を行います。 睡眠の深さは脳波を用いて検査します。健康人の睡眠は図17のようにREM睡眠とノンREM睡眠から形成されています。したがって健康な人の睡眠には、ステージ3・4の深いノンレム睡眠が現れます(図18)。ちなみに、無呼吸症になると、ステージ1・2の浅い睡眠ばかりになります(図19)。
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さあ、診断がついたら治療です。
世界中で使われており、最も効果的で安全な方法です。
これは、鼻にマスクを装着し、圧力をかけた空気を鼻から持続的に上気道に送り込み、上気道を押し広げるというものです(図20)。機器は年々軽量になり、静音、マスクもフィット感に富む素材を使用しています(図21〜図23)。
このCPAPは、年々性能が向上しています。当院で主に処方しているCPAPはAuto CPAPと呼ばれるものです。これはいびき、無呼吸、低呼吸などの睡眠呼吸障害を機械が感知して気道を押し広げる圧力を自動的に調節するものです。
睡眠中の無呼吸の程度は、同じ人でも例えば「お酒を飲んだ」、「眠る体位が変わった」とか、また、その日の体調などによっても変化し必要な圧力も変わります。Auto CPAPなら、毎日、良質な睡眠をとる事が出来ます。CPAPは空気の圧力を利用して気道を押し広げるものですから、使わなければまた無呼吸が起きてしまいます。継続して治療する事が大事です。当院でのCPAP継続使用率は80%を越えますが、冬場は、どうしても使いづらいようです。冷たく乾燥した空気により鼻が刺激され不快感を感じたり、マスクの内側に結露が生じるためです。対処法としては、「部屋の温度が10℃以下にならないよう暖かくする。」「家電の加湿器を枕もとに置く」などがあります。他にも「CPAPの機械とマスクをつなぐ蛇腹のホースを布団の中に入れる」のも効果的です。
CPAPは、治療を始めたその日から健常者同様の睡眠がとれる可能性がある治療です。患者さんは、その効果を「朝起きたときの快適さは、いままでになかったこと」「ぐっすりと眠ったことが自分でもわかる」「世界の色合いが変わった」「脳みそを取り替えたみたいに気持ちよい」「楽しい人生が取り戻せる」など、本人にも信じがたいような効果をもたらしていることが、こうした言葉からもわかります。SASが改善されたことで良い睡眠がとれるようになり、脳がしっかり休めるのでいわゆる「五感」が正常に働くようになるためと思われます。
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睡眠時にスリープスプリントと呼ばれる医療用マウスピースを装着し、下顎を前方に出すことで気道を確保し、いびきや睡眠時無呼吸症候群を軽減します。この治療法は軽度の症状向けの治療です。
睡眠時無呼吸症候群は、心筋梗塞、脳卒中、高血圧、高脂血症、糖尿病など様々な生活習慣病を合併し、寿命に影響します。睡眠中のいびき、無呼吸を人から言われたことのある方はぜひ受診して下さい。
A.まず専門外来をご予約ください。 予約専用電話 024-947-1599
外来診療は坪井永保医師が行います。
火曜日、水曜日 | 午前 |
金曜日 | 午後 |
A.・簡易検査(スリープテスト、鼻通気検査含む)
・入院して行うポリソムノグラフィーは、3割負担で約29,000円です。
診断を確実に行うため、両方とも行うことをおすすめします。
A.CPAPは基本はレンタル使用です。
A.CPAPは体の構造を永続的に変えてしまう治療ではないので、期限は決めずに使用していただきます。尚、CPAP処方された方は月に一度専門外来でのフォローアップが必要となります。CPAP装置内のメモリーカードによる、使用時間、圧の変動など状況のチェック。AHIの変化。などをチェックします。